日経記事に学ぶビジネスモデル    2004/04/02 NO.59
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■■ ニッポン経済 魅力発見 【経済文化で世界けん引】 ■■
日本経済新聞 2004年3月17日(水)経済教室

 概念図 経済文化で世界けん引
 3月17日から19日まで3回に渡って、経済教室「ニッポン経済 魅力発見」というコラムが連載されました。各回の内容は示唆に富んでいましたので、まとめてみようと思います。今回【経済文化で世界けん引 新・京都モデルに光】です。



 連載各回の見出し
 3/17 上 経済文化で世界けん引―新・京都モデルに光
      <今井賢一 スタンフォード大学日本センター理事>
 3/18 中 日本企業――「見えざる資産」は大
      <竹内佐和子 東京大学大学院技術経営プログラム教官>
 3/19 下 業績と雇用、連動して回復――ITで組織を結ぶ
      <藤井英彦 日本総合研究所主席研究員>
  記事内容の要約  経済文化で世界けん引―新・京都モデルに光
           生活の場の創造力を重視
記事リード
 現在の日本にもっとも必要な葉、自国経済を悲観せず、長所や魅力を再発見し、それを伸ばしていく努力である。多様な人材による生活の場を通じた創造活動から、世界をリードする革新を生む「経済文化都市」の育成が大きなテーマであり、そのモデルは日本の古都、京都にある。

「三つのT」 革新のカギ
 米国の社会学者リチャード・フロリダの「創造的階級の登場」という議論を窓口にすれば、・・・米国では「スーパークリエイティブ・コア」と呼ばれる生命科学やコンピューター技術、アートなどの仕事をする人々が総就業者の1割、そして金湯、法律などに関わる広義の創造的階層が参割に達し、それらの人々がどんな場所に住み、どのような生活様式をつくるかが、今後の社会を規定していくという議論である。
 この議論がなぜ大切かというと、創造的で儲かる仕組みのできた場所(米シリコンバレーなど)に人々が集うのではなく、
自分の仕事と生活様式を創造的な文脈としてつくりうるクリエイティブな風土のある場所に人々が住みたいと思うようになり、彼らが新しい社会の仕組みを生んでいくのだという逆転の発想があるからである。
 フロリダ流の発想ではこれからのイノベーション(革新)の集積は「三つのT」によって規定されるという。第一は
テクノロジーのT、第二はタレント(人材)のT、第三はトレランス(許容度)のTであり、彼はこの中で第二と第三の組合せを重視する。つまり、創造的な人材を集めるには、地域社会の許容度なり自由度なりが重要で米テキサス州オースティンなどが、新たな創造的な場所になってきたことも、それで、説明可能である。

職人精神の伝統 先端技術と結合
 三つのTに即して、京都の「創造的な場所」を強調、説明している。
 ・第一の技術のT:「ベンチャーの京都=京都モデル」
 京セラ、堀場製作所、村田製作所、ロームなど鮮明な個性と技術力を持つベンチャー出身企業の
 利益率は、日本の平均的な企業の約二倍に達する点を指摘できる。

 ・第二の人材のT:事業所あたりの大学院生の比率が最も高い。質も高い。
 京都の誇りと気高さが、個性派の人材を生かす許容性をもたらすという観察(末松千尋「京様式
 経営」)も見いだされる。

 ・第三の許容性のT:京都の36大学できわめて多様な外国人留学生を受け入れている。
 京都の町家を再生し、世界的なコンピュータアートを育てようという京都府のプロジェクトのな
 かで「コンピュータ漫才」とか「禅コンピュータ」といった実に奔放な創造的な仕事が許容され
 ている。

▼「三つT」から京都を「再発見」、「東京」と「京都」の総合比較
タレント(人材) トレランス(許容度) テクノロジー
(技術)
総合比較
東京
(広範囲な地域)
人材のあらゆる層が集中。 世界の異質な人間を受け入れる許容度も高い。
何でもありのるつぼを形成。
(論及していないが、多種多様な技術・企業は多い)
構造化された無秩序。
一見多様性や異質性をもつように見えるが、同じものの小さな差異。
京都
(狭い範囲の地域)
事業所あたりの大学院生の比率が高い。質も高い。 極めて多様な外国人留学生を受け入れ。
世界最高品質を目指す職人精神の伝統と最先端技術の結合。
奔放で創造的な仕事が地元社会で許容。
ベンチャーの都=京都
ベンチャー出身企業は平均的企業の約二倍の利益率
京都の誇りと気高さが、個性派の人材を生かす許容性をもたらす
 著者も述べているが、「単純な比較の構図を考えたとき、一体どのような「再発見」が可能であるか」という前提で表を見ていただきたい。「経済文化都市」というものを目指した場合に、どのような再発見が得られるのかという一つの「切り口」と考えるといいだろう。

文化的戦略 日本に必要
・・・
いま切に求められている創造性とは、生活の場の至るところに偏在し、「個人性」を持つ人々の顔の見える相互作用の中から、新しい仕事と生活の様式を生み出すという性質のものであろう。・・・
人々が働き住む場所において、京都の町家のような日本的なものが情報技術と結びついて生まれ変わり、世界の人々がそこに引き寄せられて新たな価値を見いだし、異なる価値の新結合によってイノベーションを生み出していくことこそが、いまグローバルな世界に求められている。

 問題はその流れを誘導するストラテジスと(戦略家)がいるかどうかである。京セラの稲森和夫ら京都のビジネス・ストラテジストたちは、自らの個性を守りつつ高収益を生み出すシステムを作り出した。今度は文化の出番である。

 世界的デザイナーの川崎和男は、自らを文化ストラテジストと呼んでいるが、実によい発想だと思う。文化を片隅に追いやらず、経済と対等に組ませて新しい経済文化の「場」をつくるべきであり、文化的戦略家の仕事が再発見されるべきである。・・・

 現在の日本に最も重要なことは、世界の人々が日本へ行き、住んで仕事をしてみたいと思うような経済文化都市をつくることである。・・・
 人々の間の知的融合によって、日本の伝統の良質な部分が再発見され、その普遍的な経済文化価値が世界に理解される。それを通じてこそ、グローバルな価値の尺度というものは、柔軟かつ多様であるべきだという共通認識が世界に広がる道筋がつけられていくのである。

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  ■  コメント  ■

 三つのTの視点で自社の企業風土を見て、自社の「再発見」を試みることも無駄ではないだろう。
経済文化を企業文化、それを受けて経済文化都市を再発見された企業と読み替えてもいいのではないだろうか。
 企業風土には創業者の振る舞いやその経営理念、歴史が影響を及ぼす。企業は特定の目的に向かって、価値観を共有している一つのコミュニティである。
 どんな企業にしたいのか、どのような事業であるべきなのか、その答えが人材を糾合する。またビジネスモデルの源泉でもある。
 そのためにリーダーたる経営者は、ストラテジストの能力を如何なく発揮しなくてならない。

◆ 関 連 情 報
 ■この記事の全文は以下のURLから読むことができます。
    Stanford Japan Center-Rsearch

 ■末松千尋著 日本経済新聞社
 【京様式経営 モジュール戦略―「ネットワークの外部性」活用の革新モデル
 この本に関する情報としては、以下のURLに著者のインタビューが掲載されていて
 「ネットワークの外部性」と「モジュール化」というキーワードのコンセプトがよ
 く分かります。
 京都経済新聞社 月曜インタビュー【焦点を聞く】「京様式」はモジュール化が生んだ

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